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【カケラ Vol.05 試し読み】 薬の恩人

空想工房


薬の恩人



――言葉は薬にも毒にもなる……忘れちゃなんねぇよ?

 記憶の中に微かに残る声。男とも女とも分からない。優しくも恐くもない。ただ、言い聞かせるように、そう言ってくれた声だけを、僕は覚えている。

『お、気がついたかい?兄ちゃん』
 ぼんやりとした頭のまま目を開くと、どこからか僕を気遣う声が聞こえた。世界は薄暗く、土の匂いがする。木々や草も見えるし、どうやら僕は地面に横たわっているようだ。
『随分とまぁ気の短い男だったなぁ?怪我ぁねえかい?』
 そう言われて、目を閉じる前の記憶が脳裏を駆けた。学校の、同級生ともめたのだ。とてもくだらない理由で。話せば話す程にこじれてしまい、最終的に殴られた。思ってもみなかったから見事にくらって…そのまま気絶したらしい。ああ、なんて恥ずかしい。
「その、ありがとうございます、すみませ…」
 赤くなる顔を片手で隠しながら微かに響く痛みを堪え、体を起こしてふと気付く。僕は誰と会話をしてるんだろう。きょろきょろ見回すも、人の姿はない。あれ?頭でも打ったかなとさすってみると、後頭部にたんこぶはあった。鈍痛の原因はこれであろう。しかし、たんこぶが出来ると幻聴を聞く事もあるんだろうか。
『ははは、おいらが見えなくて仰天してるってぇ面だな?そうだろう?』
 声の主は楽しそうだ。どこかに隠れているのだろうか。そう思い、ゆっくりと視界を動かしながら、声がしたと感じた方向を見つめる。草は生えているが、別段視界を覆う程ではない。見つめる先に、人の姿などないのだ。
『うぅ~ん、惜しい。いい耳してるようだが、それじゃあおいらは見つからねえ』
 からから笑う声はそう応えた。見つからない?そう言い切る理由を考え、僕はその時初めて背筋が寒くなった。――誰と、話をしているんだ?



著者:琉桔真緒 twitter/url



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創作サークル「空想工房」会誌・カケラ Vol.05

発行:2019/10/12
A5サイズ・92P
頒布価格:500円



 気になる続きは「カケラ Vol.05」でお楽しみください(^^)/

 →テキレボ9・webカタログページ
 →通信販売(BOOTH)ページ
Posted by空想工房

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